先週はみなとみらいのヘンな形をしたホテルへ。二人の勤務形態上、週の中ほどの一番料金の安い日が自由に使えるのはありがたい。といっても奥さんのほうは三月末に一応これまでの仕事のけりがつくので、四月以降は二人の遊びの形も多少変わってくるかもしれない。まあそんな記念の意味も込めてのお泊り。天気はあいにくの雨。というか風が強く雨も横から吹きつけ、ちょっとした嵐だった。この休日は箱根の温泉宿へのツーリングも計画していたので、それを考えるとぞっとした。雨具があるから大丈夫だよ、しかも今度は伊豆よりは近いからと言い聞かせ、雨風を凌ぐために身体を屈めて前傾姿勢をとりながら必死に高速を走っている自分たちの姿を思い浮かべると自嘲さえ催した。ホテルに落ち着いて空調の利いた部屋のソファーに沈みながら客観的に考えてみれば、それが正気の沙汰じゃないことがよく分かる。窓下に桟橋、正面にはベイブリッジ、風車、結婚式の夜に見た謎のツインタワー("贅沢な夢をかなえている街" / 小室みつ子)。僕らがここを離れている間はずっと瓶に詰められていたかのように、いつも変わらぬ姿で迎えてくれる光景。雨に煙っていてもそれは変わらない。コンデジで何枚か写真を撮ったあとに外へ出る。クイーンズスクエアも、ランドマークプラザも竣工してから結構な時間がたっているはずなのに、いつ来ても色の褪せる気配をほとんど感じさせない。80年代以降に建てられた他の施設と比べてもこの第3セクターの新品感は際立っている。手抜き工事につきもののコンクリートの染み出しや柱のひびも見られないのは、まだ資金が潤沢だった頃に設計された建築物の堅牢性ゆえだろうし、広い商業区にゴミの一つも落ちておらず、自動ドアのガラスや手すりの金属も今日取り付けたみたいに見事に磨かれているのは、それが人手によって夜ごと勤勉に管理・清掃されているからであろうが、この空間にいてそういう泥臭い内情、手間のかかった労働を思い起こすことは難しい。豪奢な吹き抜けの下を歩く人々は、このきれいな空間が己の洗練の象徴であるかのように誇らしく大手を振って歩いているように見える。そういう自分だって、苦しかった遠距離の時代から人間的辛苦の漂白された場所を求めて避難を続けてきたわけだ。昔空地だった区画には、今やそうした避難民たちの巨大な根城が息苦しいまでに立ち並んでいる。インド料理屋でカレーを食べてから有隣堂で本を漁る。江戸時代から現代までの海外線の変遷などが分かる横浜の古地図みたいなものがないかなと探してみるが見つからず。立ち読みで撃たれたPaul Austerの詩集を買う。

Hewn till white- : the bronze
heart and heaven-shape
of our gradual
winter.

Do no forget,
my dreamless one, I, too,
came to this world before
the snow.
(South / Paul Auster)

ランドマークホールではちょうど『手塚治虫生誕80周年記念 手塚治虫FILMS 2008』が開かれているという。パンフレットをもらって帰る。明日の予定は決まった。