春になると神経が疼く。体の末端まで神経を覆っている皮膜が剥がれ落ちたようになって、そこから風の音や音楽が麻酔のように体の中に入ってくる。冷たい花の匂いを含んだ空気がヒリヒリと皮膚に沁みる。見晴らしの良い場所を通りたくて今日は大通りを走った。風が正面から当たって苦しい。汚い町の信号機の上に刷かれた雲が金星をおおう二酸化炭素の雲のようだ。急に突風が吹いた。舗道の端に溜まった花びらが巻き上げられて、建物の間の見通しを埋めた。花の吹雪が異様な生気を帯びて縦に舞いなかなか落ちてこない。あの向こう側で誰かが死んだのだろうか?
家に帰って煙草を吸ってもなかなか放心は抜けなかった。本を読んでも一行の意味が正確に入ってこない。ピアノの上でただ機械的に指を動かして夜を待った。家のチャイムが鳴ってドアが開いた。
タナトス星からの使者アネハーマン♪」
僕はこうやって生かされている。