ぼくらが遙か昔を思い出そうとしているとき、眠りにつくまでのあいだ瞼の裏に映るさまざまな形と時の移ろいを感じる時、煙草を吸いながら下を向きそれでも焦点は地面に合っていないようなとき、ぼくらの眼に映っているもの(そこに現れているもの)。それはぼくたちの中に降り積もった過去からできた不透明な屈折体のようでもあるし、はるか遠い宇宙の暗黒のようでもあって、またただのそよ風(breeze)のようでもある。それが過去から来ているのか未来から来ているのか分からないけど、ぼくたちを妨げ、包み、祈らせるそのものがそこにあることを僕たちは知っている。目を閉じる、昔覚えたフレーズを探す、まだ見ぬものを思う。そんな時、断面が開き、光が漏れる。彼の音楽はきまってそんな「向こう」から聴こえてきた。
無風の空間に包まれた直立の炎がこの世のざわめきにふれたときにおこるさざ波。不安と優しさ。拍手は少ない。でもそこにいる人たちは絶対にそれを聴いたはずだ。
・My Foolish Heart / Waltz For Debby
Alice In Wonderland / Sunday At The Village Vanguard
Sunday at the Village Vanguard