2年前のドイツで「世界一」になった時の荒川さんの映像を見つけてしまいました。
まあ見てみて、このバターを溶かすナイフのようなスケーティング
http://www.youtube.com/watch?v=wQzKP7-8oU0&search=ARAKAWA
この人がこんなに凄いことをやった人だってこと、みんな分かっていただろうか。少なくとも自分は知らなかったし、安藤美姫浅田真央のプロモばかりが流れるテレビを見ていた大半の視聴者にとっても、彼女の存在は全日本選手権まで半ば忘れられていたのではなかっただろうか。
今日もニュースを見ていると、流れてくるのは、肝心の演技はイナバウアーと曲がクライマックスを迎えるフィニッシュ・シーンを細切れにつなげただけ映像だけで、あとは地元の乱痴気騒ぎとか、天才少女が挫折を経ての栄冠を勝ち取ったというストーリーとか、自分がオペラ通だってことをアピールしたいだけの小泉とか…。
確かに金メダルは偉いことだしニュース性は抜群だ。せっかくのお祭りなんだから騒ぎたい。でももう少しその祭りのおおもとになったメダルの内実に目を向けられないものだろうか。各シーケンスの完成度と連続性、曲の解釈と振り付けとの関係。フィギュアの得点を構成するこういうポイントを言葉で表現するのはとても難しいし、細かいことを語りだしたらきりがないものかもしれない。でもマスコミは、語ることはできなくても、その映像自体をもっていてそれを見せることはできるんだから、この世界選手権の映像みたいに、これだけの画質の悪さで、1人の選手が磨き上げた身体の芸術性の高みをこれだけビシビシ伝えてくるようなものはもっともっと流すべきだと思う。この映像には、それだけのインパクトがある。
話はちょっと変わるが、スポーツにおける記録の重要性について最近落合がこんなことを言っていた。「首位打者争いをしている時に、トップの選手が試合に出なかったりすると卑怯だという輩がいるが、全く愚かしい。何年かたったときに、あの時の首位打者は最後の試合に出なかったとか、誰も覚えていない。残るのは記録だけなんだ。」
まさに、記録偏重の風潮を逆手に取った悪しき開き直りというべきだろう。
一体そうやって記録だけを残した選手の何人が、ドイツでの荒川さんのように「ドガの絵のような」印象を残せたのか。
むらぬしさんがしきりに口にしていた「見せること」へのこだわり。五輪前に荒川さんが心を動かされたファンからのメールの内容。今日の試合を見て、彼女たちが目指していたものの意味が少し分かると同時に、それでも、あれだけメダルや順位への言及を避けてきた選手が4位に決まったときに見せた表情なんかも見ると、「芸術を競うこと」の難しさをつくづく感じたり…。
「スケートは人生」。
人生に例えられるものは多い。それにしてもその何という難しさだろう。

  • おまけ

全盛期の伊藤みどり。まさに"AIR"
http://www.youtube.com/watch?v=m7SKYJ1p64k&search=skating%20ito