ベリー公のいとも豪華なる時祷書

desideriusm2005-03-01

昔は本は今よりずっと希少で高価だったので、ほしい本を手に入れるのは大変だった。トレドの有力者をパトロンに得て暮らしは裕福だったエル・グレコは、その収入の大半を注いで本を買い集めたと言われているが、その量はたったの130冊。これでも当時としては図書館に匹敵する蔵書量だったという。数が少ない分、本は祭儀・典礼に使われたり、持っているだけで自慢になったりと、「情報の容器」として以外の価値を多分に纏っていた。
そんな昔の本の中でも「最も美しい」ものの一つとされ「フランスの至宝」とも呼ばれて所有者たちに愛されてきたのが、この『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』。月毎の風物や、聖人の祝日、日々の祈りの言葉がカレンダー状に編纂された本で、恐ろしく精緻に描かれた中世当時の田園風景と、冬も夏も昼も夜も普遍的に変わらず、天球(宇宙)と同じ色に描かれた鮮やかな青が印象的である。この青色を出しているのは、中東産のラピスラズリを砕いて作った顔料で、他にも黒を出すのに象牙を焼いて溶かしたりと、さまざまな高価な鉱物が使われているらしい。「フランスの至宝」は、その物理的組成においても、正に宝石の集積体なのである。
http://humanities.uchicago.edu/images/heures/heures.html(ここで全部見れます)