壮年臭の一言

金曜日は近所の事業所で、キックオフ・ミーティングがあった。季節の節目や新たな成員の加入時に、当面の目標を定め、みんなで団結を確認しあうという気持ちの悪い恒例儀式である。うちの部署は、景気の悪い研究所の中でも最近は特に不振で、人事の回転もとても激しい。今回は新年づけで就任した上長の施政方針演説を兼ねていた。
この上長、アメリカ帰りの、会社からも勲章を貰っているエライ人だそうで初日からやたらと気合が入っている。会社のお荷物になりかけのこの部署を、華やかなスポットライトを浴びて活躍するエリート集団にでも変えたいらしい。横文字を並べ、グローバルなコネを披露し、弁舌に力が入る。仕事のリーダーとして気合が入っているのはまあいいとして、言葉の切れ間から露出する強権的な気風と、人身掌握を意図して時折放たれる笑えない冗談に、聞いているほうもなんだか引き気味、シラケ気味だ。上長も無意識にそれを察知し、なんともいえずぎこちない空気が流れる。
ちょうどプロジェクターにメンバーリストを映しながら、新しい船出のための新体制について説明していた時だ。前のマネージャー席のほうからボソボソと雑談のような声が聞こえてきた。自分の会話が遮られるようなことはプライドが許さないタイプの上長、明らかにムッとした感じで当のマネージャーに「何?何か間違ったこと言ってる?」マネージャー、最初はもじもじ躊躇っていたが、「何よ?なんかおかしい?言ってみな?」とまくし立てられ、しぶしぶと「いやーね、○○さんのチーム、名前が一文字の人が多いなぁ、って思ってさ」
一瞬、自然に場が和んだ。みんな笑った。上長もつられて苦笑していた。
壮年臭で、いつもヘラヘラ笑っているだけのこのマネージャーを、オレはその印象だけであまり好いていなかった。だが、この日彼が行った挨拶も、上長と社員との隙間に水を流そうとするような内容で、なかなか立派だった。
自分が会社の人を見る目には、会社で働いてる人間なんて所詮はみんな社畜だとするフィルターがかかっていて、このために、その人が隠し持ってる深みを見逃しているのかもしれないと思うことが、今までにも何回かあった。こういう人の見方は、人の党派性を嫌悪するあまり、自分自身が党派性を纏ってしまうことに繋がるのだ。