普段家事はほとんどしないのだが、妻と息子が幼稚園の親子遠足で遠出をした日、珍しく洗濯と洗い物、風呂の掃除をして待っていた。帰ってきた妻はいたく喜んでいた。
次の日の土曜日、仕事部屋にいると、洗面所の方からガタゴトとうるさい音が聞こえてくる。まもなくして入ってきた妻が「昨日父ちゃんがお風呂洗ったから、今日は○くんが洗うって」。これまで僕の方から息子に対して、エディプス・コンプレックス(オスとしての競争心)を刺激するようなことは一度も言ったことがないのに、三才を過ぎたあたりから、僕が肉を食べれば肉を食べる、ピアノを弾けばピアノを弾くし、遠近法の絵を描いたら遠くのものは小さく描く、というように同性の親に対するライバル心がとみに強くなってきた。おかげで肉も野菜も食べるようになってきたのは良いが、転じて父ちゃんは肉を食べるな、野菜も食べるな、ピアノの練習もするなとなるのはいかがなものか。
皆で風呂に入った後の夕食時、息子はこんなことを言う。「父ちゃん、昨日穴ンコ(排水溝のこと)洗った?○くんは洗った。父ちゃんが洗ったお風呂より、○くんが洗ったお風呂の方が気持ちよかったでしょ?」
お前が洗った風呂の方が何倍も気持ち良いのは本当だが残念、その理由はお前が考えている理由ではないのだ。そしてそのことが判っているうちはまだ、オスとして負けてはいないと思うのだ。