9年間住んだこの部屋、間取りも二人には十分だったし、最上階の角部屋でこれ以上ないほど日当たりも良くお気に入りの住処だったのだが(でなければ9年間も住まないだろう)、いかんせん建物の断熱性に乏しいところがあった。夏の夜は冷房を効かせても壁からの放射熱で体に火照るような不快感があり、冬は窓だけでなく壁からも汗が滴った。おかげでカビへの対処にはずいぶん苦労させられた。一時など本棚に隠れた壁の一面が真っ黒になっていてあわてて漂白剤を手に大掃除をしたこともある。カビの繁殖は目の届かないところで顕著で、押し入れは衣装ケースの中まで侵食されていた。今回久しぶりに空けた衣装ケースの中から出てきた、大学時代に友人から貰った牧瀬理穂のポスターと、高校時代に取った空手の黒帯は両方とも耐えがたい異臭に侵されていた。ポスターのほうはやむなくゴミに出すことにしたのだが、黒帯のほうはわりあい苦労してとったものだけに捨てるわけにもいかず、一旦洗濯してみたものの奥までこびりついているらしく臭いは全く落ちなかった。モノがモノだけに漂白剤を使うわけにもいかず途方に暮れているところだ。