ドリカムの聴き方

邦楽についてお喋りしようとするとついつい気恥ずかしさが付きまとって腰が引けてしまう。これは結局なんだかんだ言って自分も含め多くの人が日本語の歌詞しか聞いていないからだろうと思う。曲への「好きだ嫌いだ」が、そのまま歌詞が伝えるメッセージ性への「右か左か」の態度表明ととられかねないとしたらついつい慎重にならざるをえないというものだろう(この年齢で尾崎豊が好きなどとうっかり口にしようものなら昔ならシベリア抑留、今でもよくて爪弾きだろう)。ドリカムの音楽たちも(本人達がそれをどう捉えているかは別にして)そんな風土の中で生を受けている。新曲がリリースされると、毀誉褒貶(共感・感動、無視を装った侮蔑・反感)の言葉が音楽を覆っていく(嗚呼なんて野蛮な世の中…)。まったくこんな風土の中でどうやって日本の音楽を楽しめば良いのか…。
ともかく『サンキュ.』(笑)の冒頭部分を聴いてみよう。シンセサイザーエレキギター(?)と生ギターの豊麗なハーモニーに導かれたイントロのあと、エレキギターのパートが消えて同じ吉田美和の声でヴォーカルの二重唱が入ってくる。
♪何も聞かずに つきあってくれてサンキュ(♪何も聞かずに ooh サンキュ)
残響を埋めるようにエレキのリフが甦ってBメロが続く。
♪煙に襲われて走りながら
ここで今度は吉田美和のパートがタイミングをずらせたcounterpointとして入ってくる。この流れの中でシンセ、エレキ、2声のヴォーカルが織りなす黄金のような美しさ!ドリカムのコーラスには浦嶋りんこさんのようなブラックなヴォーカルが入ることも多いのだが、個人的には吉田美和の声が編集で重ねられるほうが好みだ。そして彼女の声は、賛否両論を呼ぶメッセージを励ましのフレーズに載せてパワフルに歌いこむメインパートよりも、マテリアルに徹してバックに回ったほう(特に高音)が断然魅力的だ。ここでは同じ声質の音を音程を変えることで重ねていくhomegeneousな響きがストリング・カルテットのようなハーモニーを生んでいるのだと思う。3Aメロではこの曲で最長のハモりが続く。
♪‘えらかったね’って あなたが言ってくれるから
♪ポロポロ弱い言葉 こぼれてきそうになる
ここでバックコーラスを採譜して正確に裏が歌えたらどんなに気持ち良いだろう。ほんと泣きそうになる…
バックで響く吉田美和の声の魅力は、『うれしい!たのしい!大好き!』(笑)でも別の面から楽しめる。この曲はイントロでアカペラで示された踊るようなテーマがサビで復活するのだが、ここで発揮される彼女のリズムに乗ったフレージングの楽しさ!多分彼女のヴォーカリストとしての資質は、あまりにも普通な日本の女の子の感性を歌った歌詞に乗せるより、こういう飛び跳ねた曲をスキャットするほうに向いているのだろう。そういう意味で彼女の魅力を堪能できる曲がベスト盤にも案外多くないのはちょっと残念な気もする。
で、話は元に戻るけどドリカムの歌詞はアンチが言うようにそんなにダメだろうか?吉田美和が、楽しくもないのに(?)笑顔を作りながら情けなくなるくらい等身大の幸福や夢を空元気で歌い続ける人間だからこそ('THE SOUL'にはスカートで顔全体を覆い隠した姿を写した写真がある)、『朝がまた来る』の暗い苛立ったような悲しみが、不意にぼくらの心を打つのではないだろうか。
GREATEST HITS“THE SOUL”