甘い生活

甘い生活 [DVD]

甘い生活 [DVD]

大学4回時の3月、荷物を引越し屋にあずけて空っぽになった京都の下宿から、奥さんと一緒に映画を観にでかけた。それまで取っていた新聞の解約かなんかで『スワロウテイル』の優待券が2枚ついてきたのである。
今となってはあれがいい映画だったのかどうか分からないけど、このことをよく覚えているのは、映画館を出たときに、西から差してきた橙色の光が一気に空一面に広がっていったという記憶によってである。疎水のせせらぎの聞こえる、確か東山近くだったと思う町全体が、隅々まであっという間に夕日と同じ色に染まった。
繁栄を極めたローマのブルジョワ社会の享楽を描いた『甘い生活』の全篇にも、都会の地層に生きたまま葬られたもの達が眠っている。それは、フィルムに焼きついた白と黒の光を見終わって画面から目を離したときに初めて、意識される思い出として、それも痛切な思い出として、私たちの中に甦ってくるのだ。